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1910年のことだった。
この壮挙が広く世に伝わり、「ジャパニーズ・モーゼ」と呼ばれて、救世主のように尊敬された。
『A物語』は映画化されて、現地ロケも行われている。
バローは第1次大戦前後から開発されて基地建設が進み、エスキモーは労働者となり、初めて現金経済を覚え、酒ぴたり、失業と、お決まりの堕落と退廃への道をたどった。
しかし、第2次大戦後、アメリカ政府はエスキモーの民族的立場を尊重し、保護し、教育に力を入れ、特に雇用に努め、村中から酒も追放して、エスキモーを立ち直らせることに努力した。
罪のつぐない、といえるのではないか。
アンカレジやフェアバンクスの街角で見かけた酔いどれエスキモーは、バローには1人もいない。
犬ゾリはスノー・マシンにとってかわり、ウミアック(海獣の皮製ボート)もモーターボートにかわったが、いまでも狩猟はさかんに行われている。
自分たちの食料や衣服を作るための毛皮をとることが主目的ではなく、キバや毛皮を売って現金を入手するためだ。
それもそのはず、村には大きなスーパーマーケットがあって、金さえあれば何でも手に入るのだ。
村を歩いて最も印象深かったのは、20年ほど前と比べて眼鏡をかけた人がやたらに多いことと、笑いが消えたことだ。
眼鏡の普及は生活の急変によるものだろう。
それにしても、あの伝統的な豊かな笑いはどこへいったのだろうか。
友に会ったとき、大猟のとき、獲物を解体するときなどの、相好をくずして声に出して笑う習慣は、白人の進出以来、絶えて久しいのか。
だが、こちらが日本人だとわかると、誰もが人なつこく近づき、かすかに笑ってみせた。
Yのおかげだと、肩身の広い思いをした。
民芸館ではエスキモーの伝統的な衣服作り、歌、踊りを見せてくれる。
アザラシの毛皮を張った1枚太鼓を叩きながら、「ヤヤヤヤァ、ヤヤヤヤァ」の単調なリフレインから始まって、狩猟、旅、恋などの歌をうたい、手足をゆっくり動かしながら踊る。
老人が踊りに陶酔する様子を見ていると、かつてカナダの北極圏で、カリブーの大猟の後、村の人たちが肉をたらふく食べて、肉に酔ったように夢中になって踊っていたのを思いだした。
そのとき私は、酒がなくても酔った気分になれることを、初めて知った。
5歳くらいのかわいい坊やが前に出てきて、アザラシの皮で作ったエスキモ−古来のヨーヨーを実演してみせ、拍手喝采を浴びた。
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